第2回 ● 「通り池」の継子伝説 ーー 下地島

二つの池からなる「通り池」。これは海側の池で、直径約75m、水深は約50mもある

 みなさんこんにちは。
 今回は伊良部島のとなり、下地島にある「通り池」にまつわるお話をしたいと思います。

 通り池は伊良部島の西にある島、下地島のほぼ西端に位置する場所にあります。池と名付けられてはいますが、実際には淡水ではなく海水で、海からの延長になっています。有名な観光スポット・ダイビングスポットなので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

                   

 昔、小さな子どもを残して奥さんを亡くした男がいました。一人で子育てするのは難しく、また子どものためにとも考えて、男はしばらくしてまたお嫁さんを迎えました。
 新しいお嫁さんもはじめのうちは子どもをかわいがっていましたが、やがて自分の子どもが生まれると、血の繋がっていない継子を疎ましく思うようになりました。邪魔な継子をどうにかしたいと考えた母親は、二人の子どもを連れて通り池に出かけます。
 通り池に着いた頃にはすっかり夜になっていました。母親は継子である兄を池に近くすべすべした岩場に、実子である弟を池から離れたゴツゴツした岩場に寝かせます。ところが、兄が「背中がいたくて眠れない」と言う弟と場所をかわってしまいます。
 深夜、目を覚ました母親は暗闇の中、スベスベした岩場に寝ている実子を通り池に放り投げ、そのまま継子をおぶって帰路につきました。やがて目を覚ました継子が「弟は連れて行かないのか」と言ったのを聞いて、自分が池に落としたのは実子であったと気づきます。
 母親は通り池に駆け戻り、我が子を落とした池に自分も身を投げた、ということです。
             
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 通り池は大小二つに分かれていますが、互いの池と外海は水中で繋がっています。またどちらの池もオーバーハングになっており、転落したら自力で上がってくるのはほぼ不可能です。年に一度、亡くなった親子を悼むように池の色が赤く変色するとも言われていますが、赤潮の影響というのが一般的です。また、先に述べたように落ちると上がってこられないことから「ここで身投げをしないように」と注意を促すためにこの話が創られたとの説もあります。
 どちらにしても、通り池は神秘的で不思議な感覚を味わうことのできる場所です。自然の作った魅力的な風景、地形を十分に楽しむことができます。またそういうところだからこそ、継子伝説のような話が――言い伝えにせよ創作にせよ――できたのだと考えられます。
 伊良部島にお越しの際には、ぜひ一度、観光していただきたいポイントです。

内陸側の池。直径約55m、水深は約40m



みなさん初めまして。

このページでは、伊良部島の民話や伝承に関する話を取り上げていきたいと思います。楽しんで読んでいただけるとうれしいです。(by  Aichi Ikema)


第1回 ● サバウツガーのおはなし

伊良部を知る上で欠かせないのが、「水」のこと。

まずは「サバウツガー」と呼ばれる、佐良浜(さらはま)地区の西端にある井戸についてお話ししましょう。

◀︎手前の石づくりの穴のように見えるのがサバウツガー。上の写真は、中をのぞいたところ。ガー(井戸)現在は使われていないが、島の大事な歴史としてのこされている

                   

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 もともと佐良浜の民は昔から伊良部島に住んでいたわけではなく、佐良浜から北の海に浮かぶ池間島からの移民でした。漁業を生業とする池間島の民が佐良浜に渡ってくる際、サバウツガーのあるあたりの地形ががサメの口の形に見えたことから、サバ(サメ)ウツ(口)と名付けられたそうです。サバウツにある井戸(カー)なので、サバウツガーということになります。
 当時、飲料水は雨水を貯めることでまかなっていましたが、生活用水すべてに使えるほどの量はありませんでした。ですから、主に洗濯等の生活用水はサバウツガーの水ですべてまかなっていたそうです。佐良浜への移民が始まったのが1720年頃、そして佐良浜に簡易水道が整備されたのが1966年なので、240余年もの間、サバウツガーは佐良浜の人々の生活を支えてきたことになります。
 井戸で水を汲むのは女性の仕事でした。小学生ぐらいからはすでに労働力として扱われていたようです。夜が明けるころになるとサバウツガーに何度も通って洗濯をし、水を汲み、それから学校や仕事に出かけていました。その日、朝一番に井戸に来た人は
「へいへい、さばうつがーぬほぅやぐみやー、かーぬやどぅふっちゃ、あきぃふぃーさまてぃ(サバオキの井戸の神様、どうか井戸の入り口を開けてください)」と井戸の神様にお祈りをしてから水を汲むのが習わしでした。
 この井戸は二人の若者の手によって発見されたと言い伝えられています。水の乏しい佐良浜地区では、井戸の確保は困難を極めたと考えられます。故郷、池間島を真正面に望む場所に井戸を見つけ出したのは、島の神様が導いてくれたものかもしれません。また移民当時の人々は、毎日水を汲みながら海の向こうに見える池間島に想いを馳せていたことでしょう。

                      
 サバウツガーは、高い崖を降りた浜辺から少し上がった場所にあります。崖の上から井戸までは急な階段になっていて、何も持たなくても上り下りは大変です。段数は123段あり、強い北風も吹き抜けるため冬は大変寒く、また危険もありました。海からの風はしぶきも同時に吹き上げてきます。洗濯物を肩にかけ、桶いっぱいの水を頭に乗せて階段を上り下りするのは想像もできない重労働でしょう。10歳に満たない子供たちが夏の暑さに耐え、冬は震えながら水を汲み、洗濯をしていたといいます。水道の蛇口をひねればいくらでも水が出てくる私たちにはとても考えられませんが、これはほんの少しだけ昔の話なのです。

                      

 伊良部島に来たことのある方、サバウツガーを訪れたことのある方、またこれから伊良部島に来てみたいと思われる方、このお話を頭の片隅にでも入れて置いてもらえれば幸いです。
※様々な口伝や資料を参考にしているので、内容には諸説あります。

昔の水汲みの苦労を想像しながら、サバウツガーから階段を昇ってみました